#tanka 4/4 あなたが好きだ
サイゼリヤ 天使の前でもコーヒーとジュースを混ぜるあなたが好きだ
2mの側溝に落ちてしまっても癖毛のまま死ぬあなたが好きだ
「愛する」は自動詞だが…と訴えて一人で帰るあなたが好きだ
言ャァスッ!アータァスキャァ! / 落ち着きます / 落ち着きました あなたが好きだ
ソーダの一部になるアイスを見送ってからキスをねだるあなたが好きだ
彼女だからあなたを好きなわけではない そう言えるからあなたが好きだ
目的の無い後戯にも付き合ってくれて無職のあなたが好きだ
1/12スケール PVC樹脂 未塗装のあなたが好きだ
火星という名前を知らずに墜ちたけどよい風の吹くあなたが好きだ
法廷画としてテレビに映ったが長い睫毛のあなたが好きだ
#tanka 2/28
妹が生まれたときはこの船も六十二億人きりだった
就職ができたら家に降ってくる やがて 千疋屋 桃 おいしい
従弟を残して陸にいるからか耳瘻孔から膿が出ている
膠着を極めた東京タワー前反政府デモ、そこへ巨大な
あまりにも初めて海を見た時に似ている君の腰の振り方
5歳下のセフレが欲しい
5歳下のセフレが欲しい。女の子がいい。処女でなくてもいいし、人より経験が多くてもいい。胸が小さくてもいい、太めでもいい。できれば一人暮らしがいい。自分の外見に無関心で、登山リュックのような鞄で通学する、他人を批判することを厭わない闊達な女の子がいい。
5歳下のセフレが欲しい。大学の新歓に易易と転がり込んできて、流れで二人きりでカラオケに行くことになり、お互いつい終電を逃して自分の部屋に泊まりに来ることになってほしい。「歌ほんとうに上手かったっすね!」と言ってもらいたい。「肺呼吸、教えてあげよっか」と言って、思い切り息を吸わせた時に膨らんでいく肋骨が見たい。
5歳下のセフレが欲しい。一度抱かれた程度で調子に乗り、こまめにLINEを送って来る愉快な女の子がいい。日曜は買い物に付き合ったり、卓球をしたり、灯台の無い岬に行ったりしたい。自分にとっては何度も行った場所を、初めて来たと大騒ぎしながら巡回してほしい。お土産に魚の干物を何枚も買って帰ってほしい。
5歳下のセフレが欲しい。酒を飲んだことのない女の子がいい。僕が家でアマレットのコーラ割りを作って勝手に飲んでいる時に、やかましい声で一口くださいと頼んで来てほしい。そこで、グラスをあげるのは法に悖るからと言って、微量を口に含み、彼女の口に移しながら酒の印象を教えてあげたい。煙草は一人で吸いたい。彼女の脳内でセックスと煙草が結び付いていてほしくない。もちろん、夕暮れの部屋の窓、揺れたり揺れなかったりするカーテンや、薄いタンクトップも結びついていてほしくない。つまり約束されたエモーショナルな安い構造のために出会いをせがまないでほしい。そんなことに目もくれず、僕の部屋で鍋ラーメンや芋餅を勝手に作り始める女の子がいい。
5歳下のセフレが欲しい。ある日、告白された、と打ち明けてほしい。最近の挙動からそんなこと簡単に予測できたし、相方に相方がいるかなんて本当にどうでもいい。5歳下のセフレから別れを提案されたら、カスの自分はまた新たなる5歳下のセフレを作るだろう。しかしもう彼女が陰茎をぶち込むだけの対象じゃないのも分かっている。諸々の思惑を全部呑み込んだ上で、おめでとうとポケットからクラッカーを取り出し、それで頭をコンと叩き、その日の夜はお好み焼きを7玉焼きたい。ある日彼女がここにフラッと戻ってきたら、今度は丁寧に広島焼きを作りたい。
5歳下のセフレが欲しい。私のことどう思ってるんですか、と執拗に尋ねられたい。僕はそこでひと呼吸置いて、いやセフレだろ〜!と答えたい。この時、泣いたり無言になったりしないでケラケラ笑ってくれる女の子がいい。よっしゃよっしゃ、セフレ最高!とはしゃぐ彼女を連れて、終電で河口湖まで飛んで行きたい。沈黙の富士山を横目にしばらく政治と宗教のジョークで盛り上がったら、県道をひたすら歩いてgoogle mapが示す小さなモーテルに入り、何回か彼女の注文通りの楽しいセックスをして、疲れたころに始発がやってくるから、長い長い来た道を歩いて帰りたい。
5歳下のセフレが欲しい。本当はそんなアッケラカンとした都合のいい女がどこにもいないことは分かっている。自分が就職し、遠いところに行ってから、最初は頻繁に連絡を取ってくれるものの、段々足取りが付かなくなってほしい。最後に送られてきたメッセージが「また今度遊びましょう!」になった時、古くなった携帯を金槌で叩いて機種変更がしたい。初めて訪れる古本屋で知らない歴史の本を買って、そして新しい恋を見つけたい。
#tanka 1/13(ラジオ放送に際して)
ラジオで放送するにあたり、無難で韻律の整った歌を用意しました.
農学部 -ここでこだまという字にも牙があるなど教わりました
はい合掌イケアの家具にふくまれる樫の命をいただきますよ
水晶を転がすような雪 日々のあぶくサイズの邪気が地中へ
隠されていないものから抱きしめます 春 人々は探してばかり
あさましい人間でしてキスもたぶん松屋の味噌汁の味でして
馴れ初めはミリねじの中一本のインチねじを見たような朝の
この旅もはじまり終わり瑠璃色の副校長が継ぐ千年紀
都会には価値がなくてもかまわないと言えるだけの価値があるから
泣きなさい笑いなさいと怒鳴られて桜に音に壁になる街
肉体が肉に戻って術みたい魔法に満ちた棺を運ぶ